今年度のフェスティバルへ

15周年特別コラム

4. 新たな時代、新たなフェーズへ踏み出す

10年目以降のフェスティバルの歩みと特徴

節目の第10回開催と10周年記念企画展『日本の表現力』を終え、次の10年に向けた最初の開催となった第11回文化庁メディア芸術祭(2007年度)。この回では、応募作品総数がはじめて2000作品を越えました。アート部門大賞は、広島の原爆ドームの膨大な記録写真を独特のドキュメンタリー映像に再構成した『nijuman no borei』(Jean-Gabriel PERIOT)が受賞。社会派の作品はマンガ部門にも目立ち、新人刑務官を主人公に死刑制度を考える『モリのアサガオ』(郷田マモラ/大賞)、現在の教育現場を舞台にした『鈴木先生』(武富健治/優秀賞)などが受賞しました。なおこの回から受賞作品展の会場が国立新美術館に移りました。

文化庁メディア芸術祭作品応募数の推移
文化庁メディア芸術祭作品応募数の推移
Jean-Gabriel PERIOT『nijuman no borei』
Jean-Gabriel PERIOT『nijuman no borei』

2008年度の第12回文化庁メディア芸術祭では、ブラジルからの『Oups!』(Marcio AMBROSIO)がアート部門大賞を獲得しました。優秀賞にもドイツ、イスラエルの作品が選出され、やはり優秀賞の『Moment - performatives spazieren』(田口行弘)も海外を拠点に活躍する邦人の作品。国境を越えた表現が充実しました。アニメーション部門大賞は、後に第81回アカデミー賞で日本人初の短編アニメーション映画賞を獲得するなど国際的評価を得る加藤久仁生の『つみきのいえ』が受賞し。エンターテインメント部門の大賞は、メディアアーティストとエンジニアの協働で生まれた電子楽器『TENORI-ON』(岩井 俊雄 / 「TENORI-ON」開発チーム代表 西堀 佑)。ジャンルの垣根を越えた活動から生まれる作品も、数多く登場するようになっていきます。

加藤 久仁生『つみきのいえ』
加藤 久仁生『つみきのいえ』

2009年度の第13回では、エンターテインメント部門でミュージックビデオの『日々の音色』(ナカムラ マギコ / 中村 将良 / 川村 真司 / Hal KIRKLAND)が大賞を受賞。ロックバンド・SOURの世界観を、パーソナルなwebカメラを多数共演させて表現した映像が高く評価されました。受賞作品展では、アート部門優秀賞の『Nemo Observatorium』(Lawrence MALSTAF)のような大型の体験型インスタレーションも実際に展示され、体験を希望する観衆の行列ができるなど話題を呼びました。またこの回では、2009年7月に急逝した巨匠アニメーターの金田伊功氏に特別功労賞が贈られています。

ナカムラ マギコ / 中村 将良 / 川村 真司 / Hal KIRKLAND『日々の音色』
ナカムラ マギコ / 中村 将良 / 川村 真司 / Hal KIRKLAND『日々の音色』
Lawrence MALSTAF『Nemo Observatorium』受賞作品展展示風景
Lawrence MALSTAF『Nemo Observatorium』受賞作品展展示風景

従来にも増してテクノロジーの日常化を実感させる受賞作品が多く見られたのが、2010年度の第14回。エンターテインメント部門大賞の『IS Parade』(林 智彦/千房 けん輔/小山 智彦)は、Twitterを活用して誰もがネットワーク上でアイコンのパレードを行える作品です。アート部門優秀賞の『The Men In Grey』(The Men In Grey)は、ネット社会における個人情報の流出にスタイリッシュな表現で警鐘を鳴らしました。またマンガ部門優秀賞の『レッド』(山本直樹)は歴史的事件を題材に採るいっぽう、デジタル環境による制作過程が受賞展示で紹介され注目を集めました。フェスティバル会期中には、Ustreamを使ったインターネット生中継も実施。いっぽうで、大型彫刻のような『Cycloïd-E』(Michel DÉCOSTERD / André DÉCOSTERD(Cod.Act)/アート部門大賞)はテクノロジーを用いながらも強烈な物質的存在感を放ち、最新メディア芸術の多彩さを示しました。アニメーション部門で『四畳半神話大系』(湯浅政明)がテレビ作品としては初の大賞を獲得したことも、特筆すべき出来事でしょう。

15年間の歴史:ひとつひとつの発展を導いたビジョン

1997年度の第1回から2010年度の第14回までに、応募作品数は初回の730から2,645にまで増加し、第14回では海外からの応募も48の国と地域から600以上の作品が集まりました。フェスティバルの来場者も、第1回の2,000人から、7万以上を数えるようになりました。こうした数字はもちろん、フェスティバル自体の内容の発展と強く結びついています。第1回は表彰式と受賞作品展というシンプルな形で始まり、やがて上映プログラムやアーティストのプレゼンテーションが加わっていきました。さらに海外のメディア芸術フェスティバルを、現地ディレクターのトークやパネル展示で紹介する企画「Media Art in the World」や、各種シンポジウムなども組み込まれていきます。国立新美術館に会場を移してからは、同じ六本木エリアの東京ミッドタウンが贈呈式の場となり、さらにサテライト会場として上映や作品展示も行うようにもなりました。
こうした発展のひとつひとつに、その実現が必要とされた理由があります。アーティストトークやシンポジウムは、新たな領域を切り開く表現が集う場だからこそ「展示だけではわからないもの」を伝えようと始まりました。また、前述「Media Art in the World」のような企画は、メディア芸術に関連した世界の動向を広く紹介し、その中での文化庁メディア芸術祭の存在意義や個性を示す役割を果たしてきました。メディア芸術の普及や人材育成を目指したワークショップや、総合的な芸術祭のために行われた会場の拡充など、いずれもフェスティバルのよりよい形を目指してきた15年間の足跡だといえます。

社会の流れとも密接な、メディア芸術の新たな動向

優れたメディア芸術の紹介と、その顕彰を通してこの表現領域の振興に寄与することを目指してきた文化庁メディア芸術祭。その目的は15周年を迎えても変わりませんが、同時に、社会の動向に連動した新たな動きも、今後はより重要になっていくでしょう。
地域活性化、地域再生の点においては、文化庁メディア芸術祭では地方展および地方巡回事業の展開がいっそう大切な役割を果たします。2011年度からは地域連携のかたちを強化すべく、地方展では各地域の美術館等、開催地域主体で企画・実施され、これを文化庁がサポートする形となりました。
海外発信の重要性もますます高まっています。アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で構成される文化庁メディア芸術祭は、世界的にもユニークな芸術祭として知られてきました。長らく交流を続けてきたオーストリアのアートフェスティバル、アルスエレクトロニカのディレクターを務めるGerfried STOCKER氏は、以前にこんなコメントを残しています。
「文化庁メディア芸術祭は4つの部門にわかれていますが、ジャンルは違えど共通点のある人々が一堂に会するフェスティバルという意味で、すばらしい貢献をしています。(中略)違う分野の人々が同じテーマにアプローチしているのはとても興味深い。それを目にすることができるというのが、この芸術祭の長所だと思います」(「第10回文化庁メディア芸術祭 Special Interview」より)
日本独自の視点で構成され、日本の文化に根ざしつつ発展してきたその特徴は、同時に国際性にもつながっています。今後もフェスティバル自体はもちろんのこと、海外展や海外参加事業を通しての文化発信は続いていきます。
人材育成の面では、2011年度から「メディア芸術クリエイター育成支援」事業が始動しました。文化庁メディア芸術祭で受賞作品や審査委員会推薦作品に選ばれた若手クリエイター(20〜35歳)を対象に、審査を通過した作家陣の新プロジェクトをサポートする試みです。また、2010年度の第14回文化庁メディア芸術祭と併催された「世界メディア芸術コンベンション」「メディア芸術部門会議」の動きは、メディア芸術の将来について重要な役割を担うでしょう。各界の専門家の議論によりメディア芸術を国際的・学術的に掘り下げていくその動きには、今後も期待が寄せられます。

第2回世界メディア芸術コンベンション2012の様子
第2回世界メディア芸術コンベンション2012の様子

「社会を写す鏡」といわれる芸術のなかでも、メディア芸術は常に新しい領域、新しい方法論を私たちに教えてくれる存在です。文化庁メディア芸術祭も、その年々に生まれてくる優れた作品群を紹介しながら、常に発展を続けるメディア芸術の世界と並走し、かつ牽引していきます。