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エンターテインメント部門

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審査講評

支配的でもサロン的でもない、自由な表現の場から生まれるシーン

主査 内山 光司

クリエイティブディレクター

エンターテインメント部門における審査基準について教えてください。

ゲーム、ミュージックビデオ、遊具など、エンターテインメント部門はメディア芸術祭の中でも特に多様な形式の作品が応募されるため、明確な審査基準を設けるのは困難です。企画規模もレンジが広く、フラッシュアイディアをそのまま形にしたような玩具と、構想から実現まで3、4年もかけたような巨大なプロジェクトを同じ土俵で審査しなくてはいけない。ただし、それらが「エンターテインメント作品」として応募されている限り、唯一の条件は「人の心を動かすかどうか」ということに尽きるでしょう。いかに人の心を掴むのか。それがエンターテインメントの基本だと考えています。

今年の受賞作品の中で特に気に入っているものを教えてください。

大賞を獲得した『SPACE BALLOON PROJECT』は印象的でした。ネット配信というリアルタイム性、宇宙まで到達するという壮大な規模、もちろん万全の態勢で挑んでいるとは思いますが、成功するかどうかもわからないドキドキが生む高揚感は極上のエンターテインメントでした。パソコンや携帯電話の画面越しではありますが、自分の手の届く所に宇宙が見える。テクノロジーが発達し、一般化したからこそ実現することのできた感動です。
 グループ魂の『べろべろ』も印象深い作品でした。これは東日本大震災前に作られた作品なのですが、事後に震災を意識してつくられた作品よりも、2011年という時代が生み出した閉塞感へのカウンターとして機能していると感じました。ただ前を向いて歩き続けるという映像なのですが、強く心を掴まれましたね。

受賞を逃した作品やノミネートされなかった作品も含めて、2011年のエンターテインメントの状況についてご意見をお聞かせください。

文化庁メディア芸術祭は「芸術」の名が付くアワードですが、エンターテインメントは芸術に依存しなくても成立し得るものです。もうひとつ、時事的な側面から震災をテーマとした作品こそを評価しようとする流れは、エンターテインメントにはそぐわないと考えています。エンターテインメントはアートというよりも、サービスやおもてなしといった振る舞いに等しい。アートは自己表現であり、それはエンターテインメントの条件の1つである「相手をもてなす」という志とは異なる動機があります。
 今年もゲームとTV CMに特筆すべき作品が少なかったのが残念でした。話題になった広告はもちろんありますが、技術的な面白さや仕掛けは備わっていても、人の心を掴むかというと話が違ってくる。昔はTV CMからも多様な表現が生まれていましたが、現在はエンターテインメントにおけるイノベーションは別の場所で生まれているという印象があります。

人の心を掴む広告から、話題になる広告へと役割が変わっていっているということでしょうか。

 もちろん、広告である以上話題になることは成功です。ただし、データ解析が進み、マーケティングの世界が整地されすぎてしまったせいか、売り上げに反映されるかどうかを気にしすぎて、新しいものを生み出せなくなっている。誰もが予想できる範囲での表現では、人の心を動かすような驚きのある作品を作り出すのは難しいのではないでしょうか。それこそ『SPACE BALLOON PROJECT』のように、誰もやらなかったことに挑戦する姿勢がエンターテインメント作品には大切なのでしょうね。

様々なアワードがある中で、文化庁メディア芸術祭をどのようなものと捉えていますか?

一言で言えばごった煮です(笑)。アニメーション、マンガ、広告、現代美術、映像、この規模でそれらの作り手が一堂に会する場所はほかには絶対にないでしょう。様々なジャンルのクリエイターが集まることで、会期中には特別な熱気や祝祭感が生まれます。作り手だけでなく、そういった業界を志す若い人たちも同じ空間にいる。僕はそれが今後のシーンのために非常に重要なことだと考えています。分野に特化したアワードにありがちな、権威的なサロンのような雰囲気がない。自由な場で様々な作品や作り手同士が混ざり合い、インスパイアし合うことで、特別な刺激を得られると思います。エンターテインメントを作る人はデザインやテクノロジーを学び、アートを作る人はエンターテインメントを学ぶことができる。そういった貴重な機会と可能性がメディア芸術祭にはあると思っています。

プロフィール

内山 光司

UCHIYAMA Koshi

クリエイティブディレクター

1961年、埼玉生まれ。広告、エンターテインメント、テクノロジーの3つが交わるところを活動の場とし、クリエイティブエージェンシーや制作プロダクションの枠にとどまらず、デジタルコミュニケーションとエンターテインメントのアイデアを融合した先進的なマーケティングソリューションの提供を行っている。カンヌ国際広告祭での金賞を3度獲得しているほか、世界中のさまざまな広告賞、デザイン賞を受賞。メディア芸術祭では優秀作品賞2回、審査委員会推薦作品4回獲得。

( 2012 )

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