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マンガ部門

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審査講評

最新型のマンガ表現と、変化を続けるメディア芸術祭の未来

主査 さいとう ちほ

マンガ家

マンガ部門ではどのような観点で審査を行いましたか?

この数年でマンガはメディアの種類を問わない表現となりました。商業雑誌に連載されている作品だけでなく、ケータイやWebでしか読めないマンガや、同人誌で発表された作品など、実に多様な作品が応募されています。マンガを巡る環境はめまぐるしく変化しているということ、それを前提として踏まえながら審査をしています。

作品内容自体の傾向はどのようなものでしたか?

審査対象作品選出の時点で、やはり東日本大震災が大きな影響を与えたのだと感じました。世の中の空気が変わり、人々が作品に求めるものが変わったことは当然ですが、震災直後、私を含め多くのマンガ家はたじろいで、何も描く気が起きなくなってしまいました。その意味で、しりあがり寿先生が『あの日からのマンガ』で震災に対して即座に真っ向から取り組んだ姿勢というのは異質でしたね。アニメやエンターテインメントの企画とは違って、編集者やアシスタントがいるとはいえ、マンガというのは基本的に1人で行う表現活動です。その時々の作家のメンタリティや環境がダイレクトに作品に反映されます。今年選出の作品は、震災以前に描かれたものが多いのでまだ顕著ではありませんが、作家の人生観が変われば、これから作品にも変化が起きてくるはずです。

先生が特に注目された受賞作品を教えてください。

大賞に選んだ『土星マンション』はもちろんですが、『ファン・ホーム ̶ある家族の悲喜劇̶』の存在感は特筆すべきです。自伝形式ながら、直接のストーリーに関係がないようなペダンティックな部分や、アメリカ社会の背景をぎっちりと詰め込んだ、非常にシリアスな作品です。初見ではマンガとして不適切だとも捉えられかねませんが、日本で脈々と続いている映画的なマンガの描き方とは異にする、小説的な描き方になっています。リーダビリティ的には慣れないと厳しいかもしれませんが、唯一無二のマンガ空間を展開しています。
他には、メディア芸術祭で初のWebマンガでの受賞作品となった冬川智子さんの『マスタード・チョコレート』には驚かされました。従来のマンガは雑誌というメディアに最適化されたコマ割り演出が形作られていましたが、その感覚とは全く違い、1ページ1ページ、スクロールして読まれることを前提に作られています。それでいてドラマ性も全く損なわない。従来のコマ割りにこだわらなくともマンガを描くことが可能であるということの体現ともいえる作品です。ケータイとマンガはツールとして、持ち歩くことができるという共通点を持ち合わせているので、実は相性がいいんでしょうね。
Webマンガの受賞作品は『マスタード・チョコレート』の1作品しか出ませんでしたが、Webマンガや同人誌の作品応募数は年々増えています。紙の制約に縛られないため、フルカラーは当たり前で、中には音やインタラクティブな要素を作中に入れているものもあります。今後、それらをどう評価していくかは重要なことでしょうね。

メディア芸術祭というアワードのカラーをどう捉えていますか?

マンガ部門に関していえば、受賞作品にはエールを送る、という意味合いが強いです。マンガのアワードというのはメジャーな出版社が主催しているものを筆頭に数多く存在し、多くの作家が受賞しています。そんな中でメディア芸術祭は、既存のマンガ業界から離れてもっと自由に、例えばメジャーな雑誌ではない作品や過去に賞をもらったことのない人にもスポットが当たるチャンスのある貴重な場だと考えています。
いまあるカラーというのも、審査委員が3年の任期でメンバー構成が次々変わってゆくため、次第に変化していくでしょう。ただ、一つだけ確かなのは、専業のマンガ家だけでなく、一般の人にもチャンスが開かれているということです。同人誌やWebの作品も応募ができ、出版社ごとの境界もない。ここまで懐の広いアワードは、既存のマンガ賞ではありえません。同時に多様すぎて、私たち審査委員は年々追うのが精一杯になってきているのですが(笑)。

最後に、来場者の方へメッセージをお願いします。

メディア芸術というのはいまや日本にとって、世界を引っ張っていけるような一大産業であると同時に一大文化となっています。特にマンガやアニメは、これまでも常に世界を牽引してきました。そのエキサイティングな、世界中に届くような力を生み出している最前線の現場というのが、メディア芸術祭の展示会場です。来場者の皆様にはその勢いと力を、ぜひとも体感してほしいです。アート、マンガ、アニメ、エンターテインメントのそれぞれが影響し合い、ぐるぐると回りながら新しいものへと発展していく様子を目の当たりにすることができます。

プロフィール

さいとう ちほ

SAITO Chiho

マンガ家

東京生まれ。1982年、「コロネット」(小学館)にて『剣とマドモアゼル』でデビュー。97年、『花音』で第42回小学館漫画賞受賞。アニメ制作集団「ビーパパス」に参加し、97年度TVアニメ『少女革命ウテナ』の漫画版を執筆。TV版と劇場版映画のアニメーション制作にも深く関わる。現在「flowers」でフィギュアスケートを題材にした『アイスフォレスト』、「凜花」で古典原作の『子爵ヴァルモン~危険な関係』を連載中。

( 2012 )

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