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アート部門

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審査講評

プロセスの精度と表現時間へのデリカシー

原 研哉

グラフィックデザイナー

大賞に決まったパフォーマンスの作品は、意外性と実験性に富んだ意欲的な試みであった。アカペラを歌う十数人の集団の一人ひとりが、「立つ角度と方向」を自在に制御できる装置に装着されて、合唱を展開するというものである。集団がまっすぐに立っている、という固定された位置関係を動かすという着想の意外さ、斬新さに加えて、それを実現する装置の精緻なつくり込みによる、具体化の完成度の高さがこの作品を際立たせていた。立ったまま人間を放射状に配置したり、その位置関係に運動性を与えたりという発想は、したたかで丁寧な装置の準備によってのみ具体化が可能で、そうした過程の確かさが表現の衝撃性の背景にある。そういう意味で、メディア芸術祭のアート部門の最高賞にふさわしいと思った。
審査を担当して3年目になるが、毎年感じることは「表現時間」に関する感受性についてである。ひとりの人間が持ちうる時間が有限であり、今この瞬間にも、鑑賞に時間を要する作品が爆発的に制作されつつあるという状況に対するデリカシーの働かせ方とでも言おうか。もちろん、簡潔に短いほうがよいというような短絡ではない。適切に冗長さを始末できるセンスを期待したい。
一方、静止画像の作品に精彩が見られないのが残念だった。特に「デジタルフォト」という領域で、新たな空気を生む作品に出会えなかった。これはジャンルの設定に問題があるかもしれず、グラフィック部門に集約されてもいいかもしれない。いずれにしても、動く現実を静止させるエネルギーの結晶をこの分野には期待したい。
記憶のなかには、人工衛星から撮影した遠い天空からの超望遠のような家族写真が印象に残っている。映像そのものも美しいが、今日、人間を見る視点として、パース感のない、しかもクリアな天空からの写真に不思議なリアリティを感じた。子どものみが時折、見えないはずのカメラを見ている視線が面白かった。

プロフィール

原 研哉

HARA Kenya

グラフィックデザイナー

1958年、岡山県生まれ。武蔵野美術大学教授。日本デザインセンター代表。「もの」のデザインと同様に「こと」のデザインを重視して活動中。2002年に無印良品のアドバイザリーボードのメンバーとなり、アートディレクションを開始する。「REDESIGN」や「HAPTIC」など独自の視点で企画した展覧会を通して、日常や人間の諸感覚に潜むデザインの可能性を提起。AGF、JT、KENZOなどの商品デザインのほか、松屋銀座リニューアル、森ビル VI、代官山蔦屋書店VI/サイン計画などを手がける。主著に『デザインのデザイン』(岩波書店、2003)、『日本のデザイン─美意識がつくる未来』(岩波書店、2011)。

( 2013 )

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