今年度のフェスティバルへ

エンターテインメント部門

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審査講評

観客の設定

中村 勇吾

インターフェースデザイナー/tha ltd.

新しい作品を初めて知る機会をソーシャルサイトでのクチコミに負う割合がますます増えてきている。自分のタイムライン上で発生した作品をリアルタイムに体験することと、どこか別のクラスタで発生した作品を後で知るのとでは、どうしてもその距離感は違ってくる。
「エンターテインメント部門」という、メディア芸術祭のなかでもとりわけふんわりとした作品カテゴリーを含むなかで、がっつりとマスを相手にしたエンターテインメントと、淡々と自分のフォロワーだけを相手にし続けているようなエンターテインメントが、まったくもってフラットに並んでいる。自分の作品をどのような観客に向けて放つのか、という「観客の設定」がエンターテインメントの大枠を決める。ソーシャルネットワークが浸透するなか、作り手と観客の関係が多様化していくに伴い、「エンターテインメント」という枠組み自体もますます多様化していく。この現在進行形の状況を、審査のなかで幾度となく実感することとなった。
大賞の『Perfume "Global Site Project"』は、Perfumeというマスな世界のアイドルを、ネットのなかの「職人」たちに解放することで大きな拡がりの現象を生み出した。Perfumeというモチーフが、一握りのプロ集団から、かつての観客であった数多くの「小さな作り手」へと拡がっていく。そしてその彼らそれぞれによる作品が、彼らそれぞれの観客へと拡がっていく。その連鎖によって従来のPerfumeというアイドルの観客を超えた拡がり─いわゆる「クラスタ越え」─が鮮やかに実現されていた。優秀賞の『勝手に入るゴミ箱』を最初に目撃したのはニコニコ動画だった。非常に高度で発明的なデバイスの製作過程を、「ちょっと作ってみました」的な軽い口調で淡々と紹介していく映像が、まずニコ動というコミュニティに投げられ、「すげえよw」といった弾幕コメントとともに再生される、その風景自体が衝撃的だった。いわゆるメディア/デバイス系の作品のなかで暗黙的に行なわれてきた従来の「観客の設定」から大きく逸脱したこの作品の「放たれよう」自体が、ひとつの象徴的な出来事として映った。
上記2作品のような、まったく別の場所にありながらも、現在の状況をそれぞれ違った角度から照らし出すような作品たちを見つけるために、すべてをフラットに並べ、ふんわりと評価していくことが「エンターテインメント部門」の面白味なのかな、というのが今回初めての審査における感想であった。

プロフィール

中村 勇吾

NAKAMURA Yugo

インターフェースデザイナー/tha ltd.

1970年、奈良県生まれ。ウェブデザイナー/インターフェースデザイナー/映像ディレクター。東京大学大学院工学部卒業。多摩美術大学客員教授。98年よりウェブデザイン、インターフェースデザインの分野に携わる。2004年にデザインスタジオtha ltd.を設立。以後、数多くのウェブサイトや映像のアートディレクション/デザイン/プログラミングの分野で横断/縦断的に活動を続けている。主な仕事に、ユニクロの一連のウェブディレクション、KDDI iidaブランドのウェブサイトおよびCM映像ディレクション、NHK教育番組『デザインあ』のディレクションなど。主な受賞に、カンヌ国際広告賞(現カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)グランプリ、東京インタラクティブ・アド・アワードグランプリ、TDC賞グランプリ、毎日デザイン賞など。

( 2013 )

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