今年度のフェスティバルへ

マンガ部門

部門トップに戻る

審査講評

国際化、媒体の多様化が推すマンガのパワー

主査 みなもと 太郎

漫画家/マンガ研究家

本年はきわめて多くの秀作が集まる一方で、「これ」といった満場一致の決定作が見当たらず、審査委員の票が割れ、1票差程度で「優秀賞」を逃す作品が相次いだ。いっそうの国際化、発表媒体の多様化、世代間の価値観のズレなどがますます細かく顕著になったことも大きな原因と思われる。私自身も一作読むたびに、例えば料理の審査員がひと皿ごとに口を漱がねばならぬような、脳内の座標軸を一新させては次の作品に挑むことを余儀なくされる経験を味わった。これまでのような「画力・構成力・主人公の魅力」といった審査基準では歯が立たないパワーが、どの作品にも溢れている。それが今回の、全体を見回しての印象であった。
そんななかで、ほぼ満場一致で選ばれた「大賞」、どれをとっても文句なしの「優秀賞」「新人賞」のなかで、私が大いに気に入っているのは、津軽弁の魅力を堪能させてくれる羅川真里茂『ましろのおと』、画力・構成力・主人公の魅力の審査基準に一番ハマッたエマニュエル・ルパージュ『ムチャチョ──ある少年の革命』、あらゆる意味でひたむきな、おざわゆき『凍りの掌 シベリア抑留記』の3作品であろうか。あとは東日本大震災における東北被災者の実体験を等身大でわからせてくれたニコ・ニコルソン『ナガサレール イエタテール』、笑いのなかに国際感覚と教養が磨ける蛇蔵/海野凪子『日本人の知らない日本語』、正反対の土着パワーを感じた荒川弘『百姓貴族』、学習マンガの王道中の王道あさりよしとお『まんがサイエンス』、圧倒的力作浅田次郎/ながやす巧『壬生義士伝』、ふてぶてしいまでの倦怠感と若さ溢れる奇作江口夏実『鬼灯の冷徹』、大賞を獲ってもおかしくなかった松田洋子『ママゴト』、いろんな意味で予断を許さぬ地下沢中也『預言者ピッピ』、推薦するには強固な理論武装が必要な気がする楽しいマンガうさくん『マコちゃん絵日記』、じっくり新境地を拓き始めた山川直人『澄江堂主人』、......ああ、芳崎せいむ『金魚屋古書店』、岡田屋鉄蔵『ひらひら~国芳一門浮世譚~』、こうの史代『ぼおるぺん古事記』、松本大洋『Sunny』......。
まったく、どれもこれも文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作にふさわしい、力作揃いでありました。

プロフィール

みなもと 太郎

MINAMOTO Taro

漫画家/マンガ研究家

1947年、京都府生まれ。67年、デビュー。ギャグとシリアスが混在した作風で人気を博す。2004年、歴史マンガの新境地開拓とマンガ文化への貢献により、第8回手塚治虫文化賞特別賞受賞。第14回メディア芸術祭優秀賞受賞。代表作に『風雲児たち』シリーズ、『ホモホモ7』『挑戦者たち』のほか、『ドン・キホーテ』『レ・ミゼラブル』などの世界名作シリーズがある。

( 2012 )

部門トップに戻る