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アート部門

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  • ©Ai Hasegawa

優秀賞

(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合

長谷川 愛

HASEGAWA Ai

写真、ウェブ、映像、書籍 [日本]

実在する同性カップルの一部の遺伝情報からできうる子どもの遺伝データを生成し、それをもとに「家族写真」を制作した作品。現在の科学技術ではまだ同性間の子どもを誕生させることは不可能だが、遺伝データを用いた推測ならば可能である。遺伝子解析サービス「23andMe」から得ることができるカップルの遺伝データをウェブの「(Im)possible Baby」シミュレーターへアップロードすると、できうる子どもの遺伝情報が、外見や性格、病気のかかりやすさなどの情報リストになって出力される。遺伝子研究が進み、もはや同性間の子どもの誕生は夢物語ではなくなろうとしている。しかし、技術的には可能でも倫理的に許されるのか、という議論を通過しなければ実現は難しい。一体誰がどのように、その是非を決定するのか、科学技術に関する意思決定の機会を多くの人に解放するために、アートにはどのようなことができるのか模索する試みでもある。

©Ai Hasegawa

プロフィール

長谷川 愛

HASEGAWA Ai

日本

アーティスト。バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。情報科学芸術大学院大学卒業後渡英。2012年英国Royal College of ArtにてMA修士取得。2014年から2016年秋までMIT Media Labにて研究員、MS修士取得。2017年から2020年3月まで東京大学特任研究員。『(Im)possible Baby, Case 01: Asako & Moriga』が第19回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞受賞。上海当代艺术馆、森美術館、イスラエルホロンデザインミュージアム、ミラノトリエンナーレ、アルスエレクトロニカ等、国内外で多数展示。著書に『20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』(BNN新社、2020年)など。

( 2021 )

贈賞理由

審査会で議論になった作品である。ヒト遺伝子操作の是非と、愛と、アートの役割という題材の強さ並びに現実との接続や論文参照の努力は、いかにも優等生的で、ポリティカルコレクトネス(社会正義)的な手法をとった芸術の一例だ。家族写真としてのセンスは最大公約数的で、同性婚問題としてはここのみが解決点ではないだろう。本作を取り上げたテレビ番組には多大な訴求力があり、出演タレント自身も含めSNSで多くの人々が感涙した事実が確認できるが、構図としては、ゴーストライター騒動で話題になった人物が、嘘をつきながらも人々に感銘を与えたことと似る。つまり本作では、遺伝情報の解釈は作者の言うとおり占い程度、すなわちフィクションだが、SFを美術に仕立て問題提起を装いつつ、虚実ないまぜに人々を感動させるプロジェクトだとすれば、美術としては嫌悪感を抱かれかねない前述の指摘はすべて、むしろ称揚されるべき諸点へと反転する。この構造を評価した。(中ザワ ヒデキ)

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