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アート部門

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  • ©Andreas Lutz, Christoph Grünberger

優秀賞

Wutbürger

KASUGA (Andreas LUTZ / Christoph GRÜNBERGER)

映像インスタレーション [ドイツ]

本作は、あるドイツ人男性の個人的な怒りや失敗を題材としている。“ごく普通の人間”である主人公シュテファン・Wは、人生のさまざまな段階を振り返り、最後に現在の困った状況にたどりつくが、そこは脱出できない監禁部屋である。特製の木箱のなかで行なわれた5時間にわたるパフォーマンスの記録が、背面からのプロジェクションによって同じ木箱に映しだされる。“Isolation episode(孤独な出来事)”と題されたドイツの国内ツアーでは、この箱はいかにも「市民が怒りそうな」場所、例えば原子力発電所、欧州中央銀行、集団監視施設などの前にゲリラ的に設置された。本作が扱う題材は、快楽主義、退屈な郊外、育児放棄などの私的な怒りを含んでおり、この箱は、あらゆる人のデモ行為や抗議行動を代行する役割を果たしている。
4時間53分
素材:木製ボックス、リアプロジェクション (プロジェクター、鏡、キャンバス)、スピーカー、ビデオプレーヤー
サイズ:縦220cm×横120cm×奥行100cm
重さ:160kg

©Andreas Lutz, Christoph Grünberger

プロフィール

Andreas LUTZ

ドイツ

1981年、ドイツ、フライブルク生まれ。エンジニア、メディア・アーティスト。現在はベルリンに住み、活動を行なっている。

( 2016 )

贈賞理由

「Wutbürger」とは、「怒れる市民」という意味で、さまざまな政治問題に対して市民が抗議の声を挙げた状況を示す言葉として、2010年にはドイツの「今年の言葉」に選ばれたという。ただし箱のなかの主人公が13幕に及ぶ一人芝居で怒っているのは、きわめて個人的な事柄に対してなのである。ここでは政治的なことが個人的なことに回収されるように一旦は思える。ところが「Isolationepisode」というプロジェクトでは、この箱は原子力発電所や欧州中央銀行などの抗議運動─すなわち「怒り」─が起こりそうな場所へと連れだされる。そのことで再び、個人的な怒りと社会的/政治的な怒りが交差するのである。ここでフェミニズムにおける「個人的なことは政治的」というフレーズを引き合いに出すのは牽強付会に過ぎるかもしれないが、現代における個人と社会/政治の関係を問いなおすという点で、優れて今日的な主題をユーモラスに描いた作品となっているのではないだろうか。(佐藤 守弘)

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