今年度のフェスティバルへ

アニメーション部門

部門トップに戻る

審査講評

ソーシャルメディアがネット世界を駆け巡る

主査 髙橋 良輔

アニメーション監督

「今年は楽だな」と、いささか軽率だが審査が始まった2016年9月には思っていた。それは今年の応募作に『君の名は。』があったからである。この時点で私はまだ本作を見ていなかったが、実際に大阪のシネコンの平日午前中の上映に接し、記録的大ヒットの現実をこの目で確かめることができた。一連の審査会で『君の名は。』は終始大賞候補一番手と走り続け、結果もそのように決着した。が、いささかの議論がなかったわけではない。その中身を要約すると、①ストーリーに新鮮さを感じない。②今後この作品が新しいジャンルを開拓していく可能性を感じない。という2点であろうか。①において多少の解説を加えれば、『君の名は。』の源流は『時をかける少女』に行き着くのではないか。『時をかける少女』はジュブナイル小説の先がけとして1967年に筒井康隆によって書き起こされたもので、その後1983年に原田知世主演の実写作品から2007年(平成19年[第10回])文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞の細田守作品まで複数作品を創出している。タイトルは違うが類型、亜流、似た設定の作品は数知れない。その中身はといえば、とあることをきっかけに時空を超えて若い男女が出会い、そしてある親しさもしくは淡い愛情を覚えたあたりで別れがきて、ひそやかな再会の期待で終わるという、一連のパターンを踏む。②においては、一個の作品として際立って高い技術力と表現力を持つが、かつての京都アニメーションが開拓したような新しい流れを日本のアニメーション界に開拓したとは思えない。というようなことである。以上述べたことは審査会でこのような議論がなされたということであり、結論としては審査に参加した全員の意見が作品の圧倒的完成度は堂々第20回メディア芸術祭アニメーション部門の大賞に値するというものであった。もうひとつ『君の名は。』においての考察を加えるならば、かつて"セカイ系"★1の旗手と言われていた新海誠監督がキャラクターデザインに田中将賀、作画監督に安藤雅司を迎え入れ、自作品にメジャー感を呼び寄せたのも大きかったであろう。今年度は大賞以外の受賞作品にも収穫が多く、劇場アニメーション『父を探して』はそれなりの人生の時を越えてきた審査委員たちの胸を熱くさせるものがあった。劇場アニメーション『映画「聲の形」』の山田尚子監督は一昨年の新人賞受賞者であり、その後の足取りの確かさと進歩に頼もしさを感じさせた。短編アニメーション『Among the black waves』のAnna BUDANOVAも一昨年の大賞受賞者であり、その芸術性の高さは数ある作品のなかでも抜きん出ていた。短編アニメーション『A Love Story』はその手法に審査委員全員が度肝を抜かれた。新人賞では、短編アニメーション『Rebellious』は、物語の題材にもミニチュア撮影にも若い感性を感じられ今後に大いに期待させられるものがあった。短編アニメーション『ムーム』は、現場キャリアは並々ならぬものを感じるが、作家としての出発にこれからの可能性を期待した。短編アニメーション『I Have Dreamed Of You So Much』は、作画が鋭く美しく、色彩感覚も際立つものがある。画面はシンプルながら隅々まで繊細な神経が行き渡っていて、1個の世界を創出している。功労賞においては、メディア芸術分野に貢献のあった方に贈呈するという観点から、飯塚正夫氏を選出した。贈賞理由は別頁(p.206)を見ていただきたい。最後に、今回の選考に当たって各作品の評価とは別にヒットの要因としてもしくはその証としての重要なファクターにソーシャルネットワークなるものの存在を強く感じさせられた。大賞の『君の名は。』の情報と評価が日本中に駆け巡った速さと威力というものは、もはや口コミだとか評判だとかの次元をはるかに超えていたと思う。

註★1─アニメーション、マンガ、小説のストーリー形式のひとつで、主人公を取り巻く日常的な出来事が世界を揺るがす危機と直結する展開が特徴とされる。

プロフィール

髙橋 良輔

TAKAHASHI Ryosuke

アニメーション監督

1943年、東京都生まれ。64年、株式会社虫プロダクションに入社、テレビアニメーション創世期に演出として各種作品にあたる。虫プロダクションを退社後、株式会社サンライズ創業期にSF作品『ゼロテスター』(1973─74)を監督し、その後の同社の方向を決める。代表作として『太陽の牙ダグラム』(原作・監督、1981)、『装甲騎兵ボトムズ』(原作・監督、1983)がある。ほかに手塚プロダクション『火の鳥』(監督、2004)、NHK『モリゾーとキッコロ』(監督、2004)、アニプレックス『FLAG』(原作・総監督、2006)、サンライズ『幕末機関説 いろはにほへと」(原作・総監督、2006)、WOWOW開局20年記念番組『オズマ』(総監督、2012)などがある。近年は大阪芸術大学にて教授として後進の指導にもあたっている。

( 2017 )

部門トップに戻る