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エンターテインメント部門

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審査講評

転換期?のエンターテインメント

工藤 健志

青森県立美術館学芸員

2016年はのちに時代の重要な転換期と位置付けられるように思う。東日本大震災から5年という節目に起こった熊本地震は再び「日常」の脆弱さを我々に突き付けた。世界では各地で続く紛争と移民の社会問題化。さらにEUの混乱、扇情的な政治家の台頭、市場経済の飽和など、これまでの枠組みや価値が次々と行き詰まりをみせた1年であった。テクノロジー分野に目を向けても、AIという一種のバズワードがディープラーニングやIoTによって具現化されたり、ソーシャルロボットやVRが普及するなど、人間を取り巻く環境も今後加速度的に変化していくことが予想される。今回の応募作にも、今日的な社会問題をテーマにしたものや先端のテクノロジーフォーマットを用いたものが多数見受けられたが、技術をどうコンテンツへと落とし込んでいくかはまだ模索段階にあるように感じられ、テクノロジー作品における「先端性」と「成熟度」の兼ね合いの難しさを改めて痛感させられた。テクノロジー×コマーシャル作品の多くも視覚的な進化は認められるものの、「見る」という行為の質の深まりについては―コマーシャルであることを差し引いても―やや疑問が残った次第。そんななか、「あるあるネタ」で攻め抜いた『岡崎体育「MUSIC VIDEO」』は卓越したセンスと表現力があればバジェットの大小を問わず魅力的な作品が生み出せることを実にあっけらかんと示してくれた。本作の新人賞受賞は個人で活動する作家の励みとなるのではなかろうか。そして社会現象となった『シン・ゴジラ』の大賞と『Pokémon GO』の優秀賞受賞。前者がオマージュ、引用、パロディといった手法を駆使し、コマーシャル作品でありながら戦後日本の「総括」をなしえたとすれば、後者はキャラ文化を用いてモバイルという概念の本質をより広く一般に定着させ、身体とテクノロジーの関係の「未来」を示してくれた。2016年という「区切り」の年の象徴として、この2作品はこれから長く記憶されていくことだろう。

プロフィール

工藤 健志

KUDO Takeshi

青森県立美術館学芸員

1967年生まれ。青森県立美術館には準備室時代から在籍。専門は戦後日本美術。「美術」の枠組みや「展覧会」の制度を問い直す企画を多数手がけている。主な担当展に、「立石大河亞1963─1993」(1994)、「山本作兵衛展」(1996)、「縄文と現代」(2007)、「寺山修司◎劇場美術館」(2008)、「ラブラブショー」(2009)、「Art and Air」(2012)、「成田亨 美術/特撮/怪獣」(2015)など。「造形集団 海洋堂の軌跡」(水戸芸術館/台北市立美術館ほか、2004─)、「ボックスアート」(静岡県立美術館ほか、2006─)といった巡回展のキュレーションも担当。近年は静岡県立美術館・村上敬、島根県立石見美術館・川西由里と3名で視覚文化研究を行なう「トリメガ研究所」を結成し、「ロボットと美術」(2010)、「美少女の美術史」(2014)の2本の展覧会を開催した。編著に『青森県立美術館コンセプトブック』(スペースシャワーブックス、2014)など。

( 2017 )

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