今年度のフェスティバルへ

エンターテインメント部門

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審査講評

生活に融けゆく エンターテインメン トの未来

中川 大地

ひとつの節目を迎えた昨年度の受賞結果を受け、新たなピリオドが幕を開ける今年度からは、どのような時代の模索が始まるのか。初めての審査参加ではあったが、個人的にはそうしたリスタート直後ゆえの静かな助走期というモードを強く意識しながら、多種多様なメディア形態の応募作品たちと向き合っていくことになった。節目というのは、単に文化庁メディア芸術祭という一制度の開催回数が20を過ぎたという意味では、もちろんない。 大賞に『シン・ゴジラ』、優秀賞に『Pokémon GO』、さらにアニメーション部門では『君の名は。』など、戦後文化史スパンでの画期をなすコンテンツ群が次々に社会現象を起こした2016年の衝撃が、あまりにも大きすぎたことである。したがって前年に比べ、わかりやすい話題性に頼らずに作品の背後に潜在する価値を注意深く見据え、なるべく多元的な評価軸から拾い上げていく審査が求められたという印象だ。その結果、今回の授賞作は次のような両極の傾向を示していたように思う。一方は、従来の表現の枠組みに大きな変革はないが、技法や題材の洗練を極めることで、独自の"型"の円熟に到達したタイプのコンテンツ。大賞『人喰いの大鷲トリコ』を筆頭に、優秀賞『INDUSTRIAL JP』『FORESTA LUMINA』、新人賞『盲目の魚-The Blind Fish-』が、こちらに該当する。他方は、単体コンテンツとしての洗練や強度には欠けるが、先端から少しこなれたテクノロジーの新たな転用による既存の表現フレームの変容可能性を、(アートのようにイマジナリーな可能世界としてではなく)凡庸的なツールやプラットフォームの形で示唆するもの。優秀賞「Pechat」「PantsChainer」、新人賞の「Dust」「MetaLimbs」がこちらのタイプだ。基本的に、21世紀に入ってからのエンターテインメント史の大きな方向性は明白である。それはデジタル技術やコミュニケーション環境のインフラ化による社会のありようやライフスタイルの多様化に対応して、20世紀に媒体フレームの確定した一斉享受型・大量流通型の芸術形態が、徐々に解体・再編されていく流れだ。具体的には、UGCによる作者の特権性の解体や、二次元(映像呈示型)から三次元(実世界指向型)への移行、一回性の体験型消費の隆盛など、ジャンルを問わず共通の傾向が顕在化している。この過程を通じて、現代のエンターテインメントは非日常ではなく、生活的日常に融け込みつつある。とりわけ『Pechat』は、そんな描像を見事に実装してみせた。ただし、実際の作品史が織りなされていく軌跡は、技術そのものの進歩ほど単線的には描かれえない。新たな情報技術のメディア化が、デジタルゲームのように表現ジャンルそのものを創出することもあれば、それを旧メディアの側が技法や文法の成熟を活かして題材やメッセージの次元で戦略的に応答することで、かえって新しい価値が見出されることもある。委員それぞれが重視する基準が最終的にバランスした本年度の授賞作群からは、2016年的な特異点ではなかったゆえに、そうした史的変化の跛行性とダイナミズムが明快に読み取れるのではないだろうか。なお、個人的な大賞候補は、審査委員会推薦作品『Fate/Grand Order』だった。マンガ・アニメ・ゲームの枠組みでは明らかに2017年の覇権IPだった本作は、日本が特異的に発展させたスマートフォン向けモバイルゲームのメディア特性を活かし、虚実を超えてユーザーの生活時間と同期する新たなライブ文芸の器に昇華させた。ユーザー外の広範な層に伝わるものではないため授賞は断念したが、空間の意味を変えた『Pokémon GO』の対になるムーブメントとして、『FGO』では人理修復という時間をめぐる数奇な挑戦が行なわれていたことは、エンタメ史の片隅に記しておきたい。

プロフィール

中川 大地

NAKAGAWA Daichi

1974年、東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程単位取退学。ゲーム、アニメーション、ドラマなどをホームに、日本思想や都市論、人類学、情報技術などを渉猟して現実と虚構を架橋する各種評論などを筆。カルチャー批評誌『PLANETS』副編集長。著書に『東京スカイツリー論』(光文社、2012)、『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』(早川書房、2016)。共著・編著に『思想地図vol.4 』(NHK出版、2009)、『あまちゃんメモリーズ』(PLANETS・文藝春秋、2013) など。村上隆監督のアニメーション作品『6HP』に脚本・シリーズ構成で参加。

( 2018 )

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