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マンガ部門

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審査講評

ピュアネスからダークネスまで

川原 和子

マンガエッセイスト

今回2年目となる審査は応募数こそ666作と昨年より200作以上減少したが、選考委員による予備選考をくぐり抜けた126作はハイレベルで、作品を読む喜びと評価する責任の重さを噛みしめながら臨んだ。大賞の『ロボ・サピエンス前史』は気が遠くなるような長い時間を洗練された絵柄で描き、壮大かつ圧巻の完成度。『鼻下長紳士回顧録』は性を通じて欲望の本質を見据え、スタイリッシュな画面構成で描き出し輝きを放つ一作。分かちがたく結びつく2人の俳優を描く『ダブル』は読み手をひき込む力がすさまじく、物語の序盤ながら審査委員一同の高い評価を獲得しての贈賞となった。自伝的な海外マンガの傑作『未来のアラブ人中東の子ども時代(1978-1984)』、40代女性の戸惑いを繊細に描いた『あした死ぬには、』と、優秀賞はテーマも表現もバラエティに富んだ秀作が揃った。『夢中さ、きみに。』は端正な絵柄と「そう来るか!」という意表を突く展開で新鮮な笑いを誘い、『花と頬』は瑞々しい描写で心の震えを見事に捉え、ともに新人賞にふさわしい清新さ。『大人になれば』は考え抜かれた粋な作品。自主制作や同人誌作の応募に門戸を開く本賞ならではの贈賞と言えよう。このような素晴らしい作品の応募がある一方で、この部門の応募数が昨年から大きく減っているのは寂しい。貴重な賞の存在を知ってもらう努力も必要かもしれない。新設されたソーシャル・インパクト賞には、時代の闇を描き出し、長期連載を完結させた『闇金ウシジマくん』が選出された。審査委員会推薦作品では作者の亡き父への愛憎が入り混じる『父のなくしもの』が特に心に残った。『やまとは恋のまほろば』のシビアなリアリティとときめく展開のバランスにも心惹かれた。ピュアネスからダークネスまで。目眩をおぼえそうなほどに幅広く、多種多様な魅力をもつマンガ作品の数々、贈賞を機にさらに多くの人の目に、そして心に触れてくれることを願う。

プロフィール

川原 和子

KAWAHARA Kazuko

マンガエッセイスト

1968年、広島県生まれ、福岡県育ち。幼稚園教諭、アニメーション制作会社ガイナックスの広報等を経てフリーに。マンガに関するエッセイ執筆やインタビューなどを行う。著書に『人生の大切なことはおおむね、マンガがおしえてくれた』(NTT出版、2009)。主な連載に、女性向けウェブサイト『SmartWoman』(日本経済新聞社、現『日経ウーマンオンライン』)にて「恋愛のお手本は、いつも少女マンガ」(2005)、ウェブマガジン『Webnttpub.』(NTT出版)にてマンガ時評「此れ読まずにナニを読む?」(2007-14)。現在、同ウェブマガジンにて 「マンガこそ読書だ!!」を連載中。『総特集三原順』(河出書房新社、2015)などにエッセイ寄稿。ムック『池田理代子の世界』(朝日新聞出版、2012)では編集協力、および執筆を担当。日本マンガ学会第10回大会(2010)にてシンポジウムのパネリストや、東京工芸大学にてゲスト講師なども務める。

( 2019 )

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