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マンガ部門

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審査講評

長らくの「不信」の終焉

西 炯子

マンガ家

私は、審査委員を務めさせていただくのは今年が2年目でしたが、去年と明らかに違う傾向を感じました。大賞に選ばれた、島田虎之介『ロボ・サピエンス前史』、私が選評を描かせていただきました、新人賞のイトイ圭『花と頬』同じく新人賞の和山やま『夢中さ、きみに。』。特にこの3作品において、私が顕著に感じたことがあります。それは、「企画の終焉」の気配。それから、「人同士の素朴な信頼」です。これらの作品が、まったく企画の要素なく描かれたものであるかはわかりません。しかし、私に「推したい」と感じさせたものは、作品の「出来」とは違うところから来ていると思います。それは「この描き手は私を、読み手を信頼している」という、素朴なよろこびです。現役の描き手である私が、久しく見失っていたものでもありました。長らく商業作家でいるということは、どこか読み手に対しての「不信」を心のベースにせざるをえないところがあります。それが工夫とバリエーションを生むのですが、先にあげました作品に触れて、「不信」は行き詰まるものだということをはっきり感じ、読み手への信頼で描かれた作品が企画を軽々と超えていくことに私は当然のよろこびを覚えたのです。通信の発達がもたらした、「いつでも繋がっていられるという孤独」のなかで生きている私たちが、心の底で痛切に欲していたのはこういうことなのだろうと思うのです。拍手ではなく、握手したくなる。そんな作品がみんな欲しかった。そこへの転換点が、振り返った時この回だったということになる、そんな気がします。

プロフィール

西 炯子

NISHI Keiko

マンガ家

12月26日、鹿児島県生まれ。1988年に小学館プチフラワー3月号にて『待っているよ』でデビュ-。代表作に『STAY』シリーズ(2002~06)、『電波の男よ』(2007)、『娚の一生』(2008~12)、『姉の結婚』(2010~14)などがある。『娚の一生』は平成22年度[第14回]文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品となる。マンガ作品以外に小説の挿絵なども手掛ける。2006年、『STAY~ああ今年の夏も何もなかったわ~』が古田亘により実写映画化され、15年、『娚の一生』が廣木隆一により実写映画化される。現在、『月刊flowers』にて『初恋の世界』、『ビッグコミックオリジナル』にて『たーたん』などを連載中。

( 2010 )

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