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アート部門

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大賞

縛られたプロメテウス

小泉 明郎

KOIZUMI Meiro

メディアパフォーマンス [日本]

プロメテウスはゼウスから火(=テクノロジー)を盗み、人間に与えたことが原因で磔にされ、永遠の苦しみを受ける罰に処された。ギリシャ悲劇『縛られたプロメテウス』を出発点に、文明社会においてさまざまに変奏されてきたテクノロジーと人間社会との緊張関係を、VR/AR技術を駆使した体験型演劇作品として展開する。テクノロジーと生命のあいだで苦悩する「現代のプロメテウス」を演じるのは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者であり、自らの難病の啓発活動を精力的に行う武藤将胤。技術面は没入型XR制作会社であるABALが担った。同作は二部構成となっており、ヘッドマウントディスプレイを装着した鑑賞者が、前半では没入型VR/ARを体験、後半では武藤の存在が明かされ、VR/ARに没入し、操作されてしまう人間の行動を批評的に眺めることになる。作者は武藤の記憶、苦悩、そしてALSが克服される未来へのビジョンを軸に、テクノロジーがもたらすユートピアに想いを馳せ、またその裏に潜在するディストピアの到来にも警鐘をならす。VR/AR技術を使用することにより鑑賞者の身体と知覚に介入し、難病当事者の視点と交錯させ、生きた感情とひとつになるような表現が目指されている。

©︎ 2019, Meiro Koizumi

プロフィール

小泉 明郎

KOIZUMI Meiro

日本

( 2021 )

贈賞理由

作者はこれまで現代美術分野で優れた作品をつくってきた。彼の作品を見る体験は(誤解を恐れずに言うと)ホラーに近い。実際には怖いシーンは皆無なのだが、見ているうちに人間の抱える闇やグロテスクさ、しかしその奥にある人間の芯などがないまぜになり、登場人物と自分の距離感を失う。すごい作品を見たという充実感とともに、自分は今、空間識失調に陥ってしまったのではないか、というような不安感も抱かせる。そういう複雑な作用を観客にもたらすことのできる作家は稀有だ。VR演劇作品として発表された本作は、扱う技術はいつもと異なるものの、やはり小泉明郎作品であり、応募されたなかで作品としての力は際立っていた。演劇・VR・美術作品という本来融合させることがきわめて難しいものをひとつにまとめ、人間の持つ業とそれに救いを求める個人、そしてそれを取り巻く社会や未来を作品化した手腕は、今年度の大賞にふさわしいと審査委員のあいだで意見が一致した。(八谷 和彦)

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