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エンターテインメント部門

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審査講評

「審査委員問題」の奥の深さ

長谷川 愛

アーティスト

今回初めて審査委員をさせてもらった。まだまだ修行中の若輩者の私が受けてよかったのだろうかと思ったが、女性は自身を過小評価する傾向があると言われているし、一女性作家としてここ数年「審査委員問題」の特にジェンダーバランスは気になっていたトピックだったので受けてみることにした。審査はとても大変だった。コロナ禍ということもあり、例年よりも特に映像作品で長尺の作品とその点数の多さに忍耐力が試された。そもそも私がエンターテインメント部門を受け持つというのはどういうことなのだろうか。エンタメの枠に送られてくる良質な現代美術やドキュメンタリー作品のお陰でしばらく「メ芸における良いエンタメ」とは何だろうかと悩んだ、未だにこれについて多くの人と議論したいと思っている。とはいえ、安心して推せた作品も多かった。『諸行無常』はVR手描き風アニメーションで丁寧につくられており、一見平和な日常の風景にじわじわと重く迫り来る資本主義と保守的信仰、グローバリゼーションゆえに生活や風景を変えてしまうということを体験させる現代美術的作品だった。個人的にエンタメとして楽しんだのは『音楽』で、アニメーションとしてのおもしろさや巧みさに感心し、何より個人でアニメーション映画をつくる根性に平伏した。もうひとつ、審査委員会推薦作品『BestFriends.com』は、Zoom画面という構造を巧みにSFネタと接続し、演技もよく、ドラマとしてもおもしろかった。良い審査委員というのは埋もれた良い作品を発見しそれを世の中に広める人だと思うが、それがちゃんとできていたのだろうか。見落としてしまった良い作品があるのかもしれない。私自身寡作な作家なので、一つひとつの作品をしっかりとみなくてはと思うが、そのためにはさまざまなジャンルの過去作品に対する知識と世界全般に対する知識が必要だと感じた。来年はさらに女性や社会的少数派に属す審査委員が増えると嬉しいと思っている。

プロフィール

長谷川 愛

HASEGAWA Ai

アーティスト

アーティスト。バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。情報科学芸術大学院大学卒業後渡英。2012年英国Royal College of ArtにてMA修士取得。2014年から2016年秋までMIT Media Labにて研究員、MS修士取得。2017年から2020年3月まで東京大学特任研究員。『(Im)possible Baby, Case 01: Asako & Moriga』が第19回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞受賞。上海当代艺术馆、森美術館、イスラエルホロンデザインミュージアム、ミラノトリエンナーレ、アルスエレクトロニカ等、国内外で多数展示。著書に『20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』(BNN新社、2020年)など。

( 2021 )

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