今年度のフェスティバルへ

インタビュー/エンターテインメント:

インタビューのトップに戻る

田中 秀幸 インタビュー

田中 秀幸

2007年

1992年にフジテレビで放映された『ウゴウゴルーガ』のCG制作チームに参加し、一躍注目を浴びた田中秀幸氏。その後も『OH!スーパーミルクチャン』をはじめとする個性的なキャラクターデザインや、スキーをするダチョウのCM「JR-SKIキャンペーン」(JR東日本)といったインパクトのある映像表現を次々と生み出している。映像、CG、グラフィック・デザインと多岐にわたる分野で活躍するクリエイターの先駆者である田中氏に、アートディレクターになった経緯や表現の場としての映像メディアについてうかがった。

自分の作風が見つからなかった学生時代

まず、アート・ディレクターになった経緯を教えてください。

イラストを描くのが好きで、イラストレーターにあこがれて美術大学に進学したんです。ただ大学でいろいろなことをやっているうちに、映像やアート・ディレクション全般に興味が湧いてきて、自分が描いたキャラクターを動かしてさまざまなメディアに発展させていきたいと思うようになって、アート・ディレクターという方向に進みました。

学生時代は、ほかの人の作品を見て影響を受けましたし、さまざまなことを学んできたのですが、そのなかで自分がやりたいことが最後まで見つからなかった。ちょうど日比野克彦さんが有名になった頃で、みんなでイラストの賞を狙って絵を描いたりしていましたが、自分は何を描いていいのかわからなかった。ああいう作品を描いたほうがいいのかなと思って、自分も真似してみたりはしましたよ。中学生の頃に描いていたマンガみたいな作品では絶対入選しないでしょう(笑)。結局、応募までは至りませんでしたね。ちゃんとやっていなくて、ただ悩んでいただけ。4年間で「これが自分の作風だ」というのは決まらなかった。ただ、いろいろな作風や表現に興味があったので、自分はコレだという作風で一生やっていくよりも、自分の興味があることを好きなようにやったほうがいいなと思いました。今でも、作風にはそんなにこだわってはいないです。

大切なのは見る人とのコミュニケーション

作風にはこだわってないとのことですが、とくにポップな表現を意識しているわけではないのでしょうか。

ひとりの人間が制作しているので、あまり自分で意識していなくても作品全般に共通してにじみ出るものはあるのではないかと思いますが、特定の表現をしようと思っているわけではないですね。完全にひとりで考える仕事というよりは、自分の制作したものがどう使われるかということがベースになる仕事なので、ポップでかわいいものという要求があればそれに応えますし、ポップな表現が適していなければ別の表現を提案します。

では、映像デザインで最も重視していることは何でしょうか。

インパクトです。見る人が自分の制作したものを見てどう思うかということを一番気にしています。どちらかというと、「自分のやりたいことを何がなんでも表現するぞ」というよりは、見る人とのコミュニケーションを大事にしたいと思っています。絵を描いて友だちに見せる、友だちに見せるために描く、という感覚で普段から仕事をしています。中学生の頃に、先生の似顔絵などのイタズラがきで描いた紙を、授業中に友だちに回したりしてたのですが、同じ感覚ですね。人に見せて楽しんでもらって初めて完成するというスタンスなんですよ。

「Amiga」との出合いから『ウゴウゴルーガ』まで

フレイム・グラフィックスを立ち上げたきっかけを教えてもらえますか?

大学の頃、コンピュータ・グラフィックスや自分の制作したグラフィック・デザインを動かすということに興味があったのですが、当時はまだ学校にはコンピュータもなかったし、本格的にCGを教えていなかったんです。そこで、卒業後はコンピュータを使って仕事ができる会社に就職して、仕事を通じてコンピュータやCGのことを勉強しました。

当時はCGを制作するためのハードウェアがものすごく高かったんですよ。本当はひとりでモノをつくりたかったのですが、こうした高価で大きなシステムになると、専門的な人しかさわることができないし、Macにも自分で描いた絵を動かすというソフトがありませんでした。そんなときに、個人でもムービーが制作できるパソコン「Amiga」が発売されたので、「これだ!」と思ってローンで買いました。自分でCGがつくれるようになって、フリーで活動したいと思っていた矢先に、『ウゴウゴルーガ』に関わることになったので会社を辞めました。いずれにしても、映像をつくれるコンピュータを個人が購入できるという状況にならなかったら、会社を辞めてなかったですね。

『ウゴウゴルーガ』にはどういった経緯で関わることになったのですか?

「Amiga」だけを使っているマニアの集まりがありまして(笑)、そのなかに岩井俊雄さんもいたのですが、皆でソフトや情報の交換をしていました。そうした人たちの存在を知っていたTV局の人から、番組のCGをやらないかとグループの人たちに声がかかったんです。連日放映する番組ですから、フットワークが軽くないとできないので、ちゃんとしたプロダクションに頼むよりもおもしろいものができるんじゃないかと番組サイドが判断したのではないかと思います。

キャラクターから映像まで:制作の背景

「ミルクチャン」をはじめ、独特なキャラクターを数多くつくられていますが、キャラクターを制作する際のプロセスを教えてください。

広告やTVの場合、番組や商品のコンセプトが決まっているので、そこから発想を広げていきます。アイデアソースはとくにないです。簡単に思いつくものではないですが、自分のなかではたくさんアイデアを考えます。クライアントに見せるときは、ある程度数をしぼって提案しています。「ミルクチャン」の場合は何も考えずにキャラクターを描いて、それを作家と見ながらコンセプトを考えていくという、普段とは逆の作業ができたのですごくおもしろかったですね。テレビや広告のキャラクターは、広告やテレビ番組のためだけに動いたり、しゃべったりするので、もっと自由に自分のキャラクターを動かしてみたいという気持ちがありました。世界観や一人ひとりのキャラクターの性格づけを全部つくってから、作家と一緒にストーリーを考えていくというプロセス、だんだん世界ができあがっていく感じというのは楽しいです。

クライアントと仕事をするうえで、提案した内容とクライアントの意向とがかみ合わなかった場合、どのように調整されていますか?

着地点を探すしかないし、ある程度は折れるしかないですね。ただし、CMの仕事は当然クライアントのために制作しているわけですから、話がきちんと理解できれば折れることはとくに問題はないです。こんなふうにしたいがどうしたらいいかと聞かれたら、前のアイデアに固執しないで、その場で新しいアイデアを考えるようにしています。具体的にこうしろ、ああしろと指示があると、じゃあべつに誰がやっても同じじゃないかな、という気がしますが、クライアントが「こういうふうに伝えたいから、もうちょっと違うものを考えてくれ」と言うのであれば、素直に考えます。

またプレゼンテーションの際、自分は言葉で伝えるのは得意ではないので、目で見てわかる資料をなるべくたくさん揃えるようにしています。自分のスタッフに説明するときも、資料や絵を見てもらってやりたいことを理解してもらうようにしていますね。

クライアントは関係なく、今後やりたい仕事はありますか?

音楽が好きなので、音楽と映像の作品をつくりたいです。広告ではなく、コンテンツとして音楽と映像がセットになって配布される作品を制作してみたいですね。

『コヤ二スカッティ』という映画があるのですが、 これはフィリップ・グラスという現代音楽家と映画監督が制作した映像作品で、2時間以上ある作品なのに風景と音楽だけなんですよ。そういう感じで、映像と音楽だけで構成されるひとつのコンテンツを手がけてみたいですね。映画ではなくて、どちらかといえば音楽よりの新しいジャンルになるかと思います。

「ミルクチャン」もそうだったのですが、自分個人の作品も制作しています。一人でつくるのは淋しいので(笑)、電気グルーヴのピエール瀧君と一緒に、ヒマがあると映像作品を制作しています。完全に趣味なので、公には発表していませんが、かなり本数はあります。

表現手法をアイデンティティにしないこと

これから映像クリエイターやデザイナーを目指す人たちへのアドバイスをお願いします。

現在では技術が発達して、誰でも簡単に表現ができるようになってきているので、自分のベーシックなセンスが簡単にむき出しになってしまう。表面的・技術的なことは機械でできてしまうから、手法そのものには昔ほど価値があるとは思えません。ですから、自分が生まれたときから積み重ねてきた経験や自分自身のパーソナリティを大事にしていったほうがいいと思いますね。

デジタルツールとは不安定なものなので、習得した技術自体を自分のアイデンティティのように思わないほうがいい。昔は、習得した技術は誰にも真似できないものだったのですが、今は簡単に真似されてしまう。技術に自分が頼っていると、真似されたときのショックが大きいと思います。

手法を真似したとか真似されたとかいう話もよく聞きますが、真似するも何もやっているのはコンピュータだから(笑)。そういうことはあまり問題じゃない。ただ、「この手法は自分のオリジナリティだ」と考えてしまうと、つらくなると思いますね。アートやイラストレーションの世界では、「表現手法=個性」という風潮がずっとありましたが、今はそれが危うくなってきていると感じます。表現手法は個性ではなくて、いろいろなバリエーションのひとつ。手法のプライオリティが高いという時代ではないと思います。

もちろん、表現手法は完成したイメージに影響するので大切なのですが、ひとつにこだわるのではなく、システムに合わせて選択してもいいのではないでしょうか。ただ「手法=自分」という考え方は危険ですね。自分自身は、表現手法は幅広く取り入れていますが、最終的に定着させるメディアに合わせて手法を選ぶようにしています。デジタルソフトが急激に発展して制作が楽になれば、その分クオリティが要求されるので、制作時間自体は全然短くなっていないですね。また『ウゴウゴルーガ』のときもそうだったのですが、デジタルツールだからといって気負ってつくらずに、もっとラフにやってもいいんじゃないかと考えていて、今でもその気持ちは変わらないですね。根本ではどの仕事も同じことをしているつもりでいます。

取材・文:岸田 麻矢
写真:田附 愛美

プロフィール

田中 秀幸

TANAKA Hideyuki

日本

1962年静岡県浜松市生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。現在は株式会社フレイムグラフィックス代表のアートディレクター。テレビ番組やコマーシャル、広告、ゲーム、PVなど、さまざまな分野で、アートディレクションからキャラクターデザイン、グラフィック、ゲーム、映像制作にいたるまで幅広い仕事を手がけている。個性的でバリエーション豊かな作品は、若手クリエイターを中心に多くの人々から注目されている。

( 2007 )